2008年7月16日水曜日

ポストコロニアルか反帝か(続)ーー二つのポストコロニアリズム

ここで再確認するのは、ポストコロニアルというカテゴリーに近い書き手は、むしろ小説家・池澤夏樹の方だということです。これに対し、野田のような自称ポストコロニアリズムの社会学者たちは、ポストコロニアルという文学的視点からはかなり距離を保っていると言える。

ポストコロニアリズムは政治的にはさまざまなポジションを含み、非同一性の理論を堅持する。これに対して野村たち社会学者の見解は、ポストではなくアンチの思想であり、むしろ反植民地主義反帝国主義の視点と命名されるべきです。

例えば昨年翻訳出版されたキャリル・フィリップス『新しい世界のかたち』(明石書店)はカリブ商品の黒人小説家による文学評論集ですが、明らかに前者のポストコロニアリズムの立場に立っています。黒人であり、決して保守的な政治評論家ではないのですが、どう見てもアンチ・コロニアリズムだとか反白人の政治的アジテーターではない。植民者(コロン)の文学者(ゴーディマーやクッツェーなど)だとかナイポールに対しても、どちらかといえば肯定的に取り扱っているのが、この本の特徴です。(さらには、レイシズム的要素を含む作家コンラッドに対する高い評価があることも、注目すべきでしょう)。

なお、もう邦訳では副題として「黒人の歴史文化とディアスポラの世界地図」と書いてありますが、これはやや誤解を招くタイトルです。おそらく出版社になんらかの「意図」があったのでしょうが、ちょっと残念ですね。

新しい世界のかたち―黒人の歴史文化とディアスポラの世界地図新しい世界のかたち―黒人の歴史文化とディアスポラの世界地図
上野 直子

明石書店 2007-11
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